創業融資は「事業計画書」が成否のカギ〜融資審査をする銀行員が解説します
事業計画書なしで創業融資にトライするのは「とりあえず貸して!あとはこれから考えるから」と宣言しているようなもので、創業融資を受けることはできない。銀行員の私はそう考えています。
創業融資を受けるためには、事業計画が必要不可欠です。創業融資について調べている人なら、何度も「事業計画」というキーワードを目にしているはずです。では事業計画とは何でしょう?どうして創業融資には事業計画が必要なのでしょうか?
そこで今回は、現場で創業融資の審査をしている銀行員がわかりやすく解説していきます。
著者:加藤隆二
金融ライター。勤続約30年になる現役銀行員。主に融資担当者として不動産関連の業務を担当。年齢を重ねてからは融資窓口で、住宅ローンだけでなく、無担保融資、事業資金融資、不動産投資など、さまざまな融資を担当。銀行員目線で記事を書いています。
事業計画とは?事業計画の定義と必要性

まず事業計画とはなにか?そしてなぜ創業融資に事業計画が必要なのか?この部分から始めましょう。
事業計画とは?〜事業計画の定義
事業計画とは、企業が事業における目標を定めて、その目標を実現するための施策やタイムスケジュールなどを決めることです。この事業計画を書類として落とし込んだのが「事業計画書」と呼ばれるもので、経営方針や事業目標を端的に掴めるので、融資の審査でも重視されます。
そのため現在では、日本政策金融公庫の創業融資申し込みなどで、融資審査通過の可能性を高めるため専門家(税理士やコンサルタント会社など)に事業計画作成を依頼する企業も増えています。
事業計画の基本スペック〜これが事業計画です
事業計画はどのような構成になっているのか、基本的なスペックについて簡単にまとめてみました。ここでは日本政策金融公庫で、創業融資申込みで必要となる事業計画(創業計画書)を参考にしました。
事業計画は融資申込み以外にも補助金や助成金申請用などでも使用されるなど、様式は様々ですが盛り込むべき基本事項は概ね共通しています。
<事業計画の基本スペック〜盛り込むべき記載事項>
- 動機・目的〜創業の動機、どのような目的で創業を目指す決意をしたのか?など
- 略歴・事業経験〜経営者の略歴、過去の職業や経験年数、担当した業務や身につけた技能など
- 事業内容〜事業の具体的な中身、取扱商品や提供するサービスについて
- 従業員〜代表者及び役員の数、従業員数(正規・非正規雇用の別)、家族従業員の人数など
- 取引関係〜販売先企業名(シェア、支払条件など)仕入先企業名(同左)外注先(同左)
- 借入状況〜資金使途(運転資金、機械購入など)、現在残高(代表借入れも含む)年間返済額
- 必要な資金について〜資金使途、必要額と内訳、自己資金額
- 事業の見通し〜売上高、経費、最終利益などの予想(創業時と創業1年後の予想及びその根拠)
基本的な流れとしては、まず動機や経歴など企業の自己紹介から始まり、事業内容などの説明、そして創業に必要な資金とその使いみち、そして最後は売上と利益の予想で締めくくるというのが一般的です。
ただし実際に融資の申込みで用いられる事業計画には、基本スペック以外に審査で求められる重要なポイントがあるのです。つまり上記したのは基本的な部分であり、重要なポイントこそが事業計画の「キモ」となるので、こちらは後半で詳しく解説します。
参考
なぜ創業融資には事業計画が必要なのか?
創業融資に限らず、融資の審査では融資金が約束した期間内に予定通り返済できないと、不良債権になってしまいます。日本政策金融公庫や金融機関など資金を融資する立場では「この会社は融資金を返済できるのか?」という観点で考えるのが融資審査の基本なのです。そのため、融資取引がある企業では毎期の決算書提出や試算表の随時提出が義務となっています。これは業況を絶えず確認して、融資返済不能になる可能性をチェックしています。また追加融資の申し込みがあれば、決算状況に加えて事業計画により今後の収支予想も確認して審査をします。
いっぽう創業融資ではこれから事業を開始する、あるいはスタートして間もない会社などが対象なので、過去の決算内容ではなく将来の予想が融資金返済の可能性を探る拠り所となります。
つまり創業融資では過去の実績を見ることができないので、将来の予想がカギであり事業計画が必要不可欠となるのです。
事業計画に欠かせない5つのポイント

ここからは事業計画に欠かせないポイントを5つ解説します。基本スペックにある内容を深堀りするものや、全く別に必要となるものもあります。
事業計画のポイント1.経営理念・ビジョン
事業計画では創業の動機が基本スペックですが、これをさらに深堀りした「経営理念」「ビジョン」といったものが盛り込まれていないと充分ではありません。
経営理念やビジョンとは、会社の利益だけでなく社会的な存在意義、あるいは企業が社会貢献など公共の利益に貢献できる理想を言葉にしたもので「社是」「社訓」などにも通じるものです。
<経営理念、ビジョンの例>
『内外の法およびその精神を遵守し、オープンでフェアな企業活動を通じて、国際社会から信頼される企業市民をめざす』(トヨタ)
『私たちは「新しいコミュニケーション文化の世界の創造」に向けて、個人の能力を最大限に生かし、お客様に心から満足していただける、よりパーソナルなコミュニケーションの確立をめざします。』(NTTドコモ)
『最高の信頼を通じて、お客さま・社会とともに発展するグローバルソリューションプロバイダー』(三井住友銀行)
もちろん事業を行なうのは会社と代表者、そして従業員への給与支払いなど自社の利益追求が当然で、ここから会社のことを「営利企業」と呼んでいるわけです。しかし創業の動機を思い描いていたとき、経営者も理念やビジョンは抱いていたはずであり、そこを言葉にするという作業になるのです。
経営理念やビジョンは、利益追求とは別ものであり、理想ばかりは追っていられないのも現実です。しかし創業融資では経営理念やビジョンがない事業計画は審査でマイナスになるので欠かせません。
参考
トヨタ/経営理念
基本理念 | 経営理念 | 企業情報 | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト
NTTドコモ/企業理念
企業理念・ビジョン | 企業情報 | NTTドコモ
三井住友銀行/ビジョン
経営理念・ビジョン・Five Values:資料編:SMBCグループ二十年史
事業計画書のポイント2.自社の市場やライバル他社との競合の分析
自社は必ずなにかの業種に括られて、当然ながら市場の競争にさらされています。そのため、自社が勝負をしている環境において、競合するライバル他社との差などの分析も事業計画に欠かせません。
とはいえこれは、日常の事業活動でやっているはずです。ただその部分も「見える化」しなければ融資審査でアピール度のある事業計画にはならないのです。
事業計画のポイント3.強み・ウリ
自社の強みや「ウリ」は、事業計画では最も重要になります。
「自社の商品はココが強い」というアピールや、「他社と比べて◯◯が▲倍」といった優位性、あるいは「☓☓通販サイトで売上ランキング第一位」といった実績など強みやウリをアピールすることはむずかしい作業ではないでしょう。
ただし、あくまで創業融資の事業計画なので、今後の業績予想と連動するような表現が求められます。
例)「我が社の主力商品である◯◯は女性用化粧品で、通販サイト「◯◯」コスメ部門で年間売上ランキング第一位となっている。これら主力商品を中心に売上は3期連続で前期比150%と好調である。そのため製造能力を増強するため新しい工場を建設する計画で、必要投資額◯億円の調達は今後の我が社が生き残る戦略上欠かせないものとなる。」
このように自社の強みやウリと、創業資金融資が必要な理由を結びつけるのがポイントです。
事業計画のポイント4.経営者の経験、経歴
経営者の資質は、事業計画で重要になります。事業や会社を動かすのは人であり、そのトップである経営者の業界経験や人脈などがアピールポイントになります。経験は長い方が良く、資格も多いほうがプラス作用となります。
いっぽうで経験が短い人や、知識はあっても未経験で起業する人もいますし、それも間違いではありません。経験などがアピールできない場合には、自分が持っている知識や今後の計画の部分で補えば良いのです。
事業計画のポイント5.実現可能な計画か?
ここまでのポイントを随所に盛り込みながらも、事業計画は実現可能なものでないといけません。
審査で有利になるようにと考えるのか、いきなり「事業計画2年目には売上が2倍、翌年はさらにその2倍」といった事業計画を作る経営者の人も少なからずいます。これらは言ってみれば「バラ色の未来予想」です。いくら右肩上がりの計画を作ったとしても、その実現性が感じられないなら計画も「絵に描いたモチ」で終わってしまいます。
参考
独立行政法人中小企業基盤整備機構/J-Net21/事業計画の立て方をわかりやすく教えてください。
まとめ
ここまで創業融資で事業計画が必要なことと、そのポイントを解説してきました。ポイントはそれぞれありますが、自分だけで事業計画を作るのにも限界はあります。そこで銀行員としては、頼れるプロの力を借りることをおすすめします。
もちろんすべて自分で作ることも可能で、その場合は自分の言葉と自分の考えが強く反映された事業計画になるでしょう。しかし、自分だけで作った場合にはどうしても客観的な視点が不足してしまいます。創業融資の審査は銀行員など社外の人が見るわけですから、そうした第三者にもしっかりと伝わる事業計画には、専門知識に裏付けされた客観的な視点も必要なのです。
そこで、税理士事務所などの専門家に事業計画を依頼すればここまでのポイントと、客観的かつ専門知識を駆使して創業融資審査で大きくアピールする事業計画ができるはずです。ただし、いくら信頼できるプロとは言っても丸投げではなく、自分の考えや意向などはしっかりと伝えて関与することも重要です。
あなたの会社で創業融資を受けるために事業計画は、税理士など頼れるプロの力を借りるのがおすすめです。ただし自分の思いをしっかりと反映してくれる相手を探しましょう。
この記事が皆さんの参考になれば幸いです。

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